【コラム】ポトマック河畔より

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悲観的にならざるを得ないトランプ政権の先行き

丸紅米国会社ワシントン事務所長今村卓

苦戦が続くとは予想していたが、ここまで予想を下回るとは。しかも、改善の兆しが見当たらない。就任から半年余りが経ったトランプ大統領の仕事ぶりに対する筆者の率直な評価である。

※これは、丸紅グループ誌『M‐SPIRIT』(2017年8月発行)のコラムとして2017年7月に執筆されたものです。

頓挫したオバマケア見直し法案

トランプ政権の発足から今まで、成立した重要法案は皆無である。トランプ氏は昨年秋の大統領選の勝利の後、政権は最初にオバマケア(医療保険制度改革)の廃止と代替を速やかに行い、その後に税制改革や大規模インフラ投資を実現して「米国を再び偉大にする」と強調していた。市場も同氏がビジネスで発揮した実行力に期待していた。しかし、肝心の政権運営はスタート地点でつまづいた。共和党が議会の上下両院を制しているから成立は容易にも見えたが、同法案は同党の内部対立から可決できなくなり、早期成立で政権運営に弾みをつけるはずだったオバマケア見直し法案は上院で頓挫、政権の最初の貴重な半年を浪費する結果になった。トランプ氏はオバマケアが崩壊していると繰り返し強調したが、実際に崩壊したのは同氏の見直し法案だった。

オバマケア見直し法案が頓挫に至る過程では、トランプ氏の法律制定への関心の低さという大統領、いや政治家の資質が疑われる問題も露呈した。トランプ氏が求めたのは議会通過という結果だけであり、同法案の具体的な内容や医療保険制度の改革には関心がない。それは、同法案が低所得者向け支援の削減などトランプ氏の支持層である白人労働者階級に不利な内容にもかかわらず、多くの国民の保険料が下がると唱え続けたことからも分かる。ホワイトハウスに招かれてトランプ氏から法案への賛成を呼び掛けられた議員からは、トランプ氏が同法案や医療保険制度の基礎的な内容を理解しているのか疑問視する声が漏れてきた。そんなトランプ氏の説得に応じて賛成に回る議員が出るはずもない。同法案の頓挫の責任は上院の共和党指導部だけでなく、トランプ氏にも大いにあると言ってよいだろう。

今後も試練が続くトランプ政権

トランプ氏と共和党は税制改革で挽回を目指す意向だが、前途は多難である。税制改革に取り組む前に秋には現行の予算と債務上限引き上げの期限が到来する。オバマケア見直し法案と同様に党内対立に明け暮れるようなら、4年ぶりの政府機関の閉鎖、米国債の債務不履行の恐れの拡大という事態になり、これまで安定していた金融市場が米国だけでなく世界で混乱に陥るリスクが強まる。筆者はさすがにこの可能性は低いとは思うが、オバマケア見直し法案の頓挫でトランプ政権と上下両院の共和党指導部の調整能力の低さを見せられた後では、決して楽観できない。

予算と債務上限引き上げを乗り越えられるとしても、その次の税制改革は難題になっている。法人税率を15〜20%に恒常的に引き下げるといった当初の大胆な目標は、軌道修正が不可避な情勢である。同党の下院指導部が提案した国境調整税は党内であまりに不人気、オバマケア見直し法案の頓挫で減税の財源が見当たらないからである。トランプ氏も、これまでと同じく自ら税制改革を主導しようという意志もその前提となる税制への深い理解も足りないように見受けられる。共和党内の財政規律を重視する保守派と財政赤字を膨らませても減税を優先したい一派の対立も根深い。かといってトランプ政権と共和党指導部には、民主党と超党派で税制改革を実現する機運はない。筆者はこのままでは税制改革もオバマケア見直し法案と同様に頓挫するか、実現しても小規模にとどまる可能性が高いとみている。

真価が問われる重要な局面

予算と債務上限引き上げで混乱を引き起こすか、それを回避しても税制改革が再び頓挫するようなら、今でも歴史的な低水準にあるトランプ大統領の支持率は一層低下するだろう。今はまだ磐石である共和党支持者のトランプ氏への支持の剥離が始まるということである。それは18年の中間選挙を控え、20年の大統領選での再選を目指すトランプ氏を焦らせ、支持層のつなぎとめに、よりポピュリスト的な政策の選択、一層の保護主義に傾かせる可能性が高いとも予想される。

昨年秋の大統領選以降、市場がトランプ氏に期待したのは、既存の政治家にはない大胆な政策を矢継ぎ早に講じて、米国経済の停滞は不可避という常識を打破することであり、その突破力は同氏の政治経験の不足というハンディキャップを打ち消して余りあるとみられていた。しかし、大統領に就任してからの同氏は、突破力を発揮することなどなく、政治経験の不足だけが目立っている。共和党支持者、白人労働者階級そして市場がトランプ氏に期待した突破力は見せかけだったのか、トランプ氏は就任半年で真価を問われる重大な局面を迎えている。トランプ氏が重要法案とその関連知識の理解に努力し、その上に法案を何としても通すという強い意志を保ち続けないことには、突破力は言葉だけに終わるだろう。筆者は、その点では残念だが悲観的だ。



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