Scope #10

B-Quik

タイ最大のタイヤ・カー用品販売会社B-QuikのCEOに聞く
~タイヤ交換は嬉しくない買い物、だからこそ顧客サービスが鍵になる

By James Simms

バンコク―「タイヤ交換をしたい人なんていないよ。僕たちは歯医者みたいなものなんだ。誰も歯医者には行きたくないだろう?」ヘンク・キックスは言う。


タイで最大のタイヤ・カー用品販売会社B-Quikは、カスタマーサービスの質の高さと、厳格なポリシーの下に行なう人事施策を武器に、このビジネス特有の難しさを乗り越え、この15年あまりで急速に成長してきた。

現在58億バーツ(1億6400万ドル)を売り上げるこの会社は、2020年までに販売拠点を200店舗までに増やし、8億バーツへの利益拡大を狙う。近年のタイの政治経済の混乱にもかかわらず、タイの中流階級の拡大とモータライゼーションの後押しもあり、強気の姿勢だ。

キックスは、スパイキーヘアで背の高い、カーレース好きのオランダ人で、ビジネスや自社員について、熱意を持って語るリーダーだ。使い古された言い回しや、ビジネススクールの専門用語などは使わない。オランダの技術学校を出て現場のフィッターとしてそのキャリアをスタートした54歳のCEOは、率直でユーモアがあり、こちらが拍子抜けするくらいにくだけた人物だ。


「土曜日の朝目覚めて窓を開け、妻に向かって『いい朝だね。B-Quikに行ってオイル交換をしようじゃないか』なんて言う人はいないよ。」キックスは笑う。

ドライバーたちは 、ぼろぼろになったタイヤ、きしむブレーキ、点滅するオイルランプを見て、しぶしぶ修理店にやってくる。新しい車を買うのとは違って、嬉しい出費ではない。その上、彼らは修理店を信用していない。だからこそ、サービスの品質がとても重要なのだとキックスは言う。

「私たちは『何も買いたくないけど、何が必要?』という顧客に応えなければいけないんだ。正しく対応するためには、誠実さや、なぜその作業が必要なのかを説明することがとても重要なんだよ。」

店舗でも、レースでも、全速力で

B-Quikの主なマーケットであるタイは、「東南アジアのデトロイト」と呼ばれる自動車生産拠点だ。自動車メーカー、つまりトヨタやホンダなどは、2015年には200万台の自動車やトラックをタイで生産し、そのうち80万台をタイ国内で販売した。B-Quikにとって、新車販売台数と既に路上を走る車の合計800万台が潜在マーケットと言える。しかもこのマーケットは拡大し続けている。


B-Quikは日本製・韓国製・タイ製のタイヤを取り扱い、販売数量において、タイ全体で12%のシェアを占める。利益の60%はタイヤだ。重点的に店舗を構えているバンコクやチェンマイといった都市エリアに限ると、そのシェアは20~25%になるとキックスは言う。主な競合は、ブリヂストンが手がけるAuto Care & Tire(ACT)やGoodyear Autocareで、これらは低価格や自社ブランドを売りにしている。


厳しい見方をすれば、B-Quikのような高価格ブランドのマーケットはあと数年で飽和状態となるとみられる。キックスは、より安価なセカンドラインを市場に投入することで、シェアと利益を拡大するとともに、マネジメントに携わる社員を増やそうと計画している。2020年までに200店舗に拡大したとしても、競争の激しい市場においては25~30%以上販売数量のシェアを伸ばすことは「ほとんど不可能」だと彼は言う。新しいブランドは、さらにマーケットシェアを10%拡大し、全体で20%のマーケット獲得を狙うものだという。

キックスは1970年代後半にオランダのカー用品販売会社に入社した。エリアマネージャーを務めながら、学位を取得し、1998年にはMBAを取得した。(この時の経験が、彼が自社員にさまざまな機会を与える姿勢に繋がっている。)1990年代後半にアジアで働き始め、2000年にCOOとしてB-Quikに入社した。2003年のマネジメントバイアウトでCEOとなり、丸紅が2006年に出資をした。

キックスには別の顔がある。B-Quikレーシングチームのドライバーだ。


このような大きなレーシングチームを抱えるのは、贅沢のようにみえるかもしれない。しかし、レーストラックにおける規律や経験は、140万のB-Quikの顧客の車へのサービスに活かされている。


キックスがレースを始めたのは10代の頃だ。たった数時間のレースには通常の走行の何カ月分ものノウハウが凝縮される。レースでは、普段店舗で働いている技術者がピットクルーを務め、自分の作業が車体にどのような結果を生むか、その場で確かめることができるのだ。
また別の収穫もあった。レースカーのタイヤには窒素が使われるのだが、B-Quikでは一般車のタイヤにも窒素を入れるサービスを提供している。窒素は航空機のタイヤにも使用され、不活性ガスのため気温が変化しても体積が変わらず、また分子が酸素よりも大きいため空気が抜けにくいというメリットがあるという。


社員を大切にすることは、顧客を大切にすること

B-Quikは新店舗拡大を年間10~15店舗に抑えている。各店舗に質の高い人材を揃える必要があるからだとキックスは言う。優秀なスタッフが顧客を惹きつけて信頼を構築し、ロイヤルティーを維持するために最も重要だ。このようなカスタマーサービスは、人材を選び、育て、同業他社よりも良い待遇を提供することで実現するのだ。

エントリーレベルであるフィッターから10店舗を監督するエリアマネージャー、さらに上のレベルまで出世できる環境、また給与面でのインセンティブによって、B-Quikはキャリアを積みたい「野心ある若者」を惹きつけている。特殊業務を除いてすべての役職は社内からの「たたき上げ」で育った社員が務める。実際に、現在の人事責任者も、創業間もない時期に店舗のアシスタントマネージャーとしてそのキャリアをスタートした。こうした施策によって、2,138人の社員から高いパフォーマンスを引き出すことができ、かつ低い離職率も実現している。


「フィッターとして働いている社員は、テクニシャンに昇進するためにはきちんと働かなければならないと分かっているんだ。だから僕たちの顧客、つまり修理店からモノを買いたくないと考えている人たちに、適切な接客ができるんだ。」CEOは言う。「すべては人材なんだよ。」

採用と育成プロセスも厳格に管理されている。

約半数の社員が、3カ月の試用期間内に辞めていく。60%がB-Quikの判断で、残り40%が自発的な判断で辞めるという。B-Quikの厳しい規律は、シミ一つない、黄色と黒のトレードマークの店舗を見れば明らかだ。壁のラックのどこにどの道具をしまうのかを示したポスターまであるのだ。


試用期間での高い離職率は、B-Quikが新入社員を面接なしに雇うことも理由の一つだ。志望者は職を得るためにどんなことでも言える。「面接に何日も使うのは時間の無駄だ。」キックスは言う。「B-Quikに適した人材かどうかというのは、考え方や働く姿勢の問題なんだ。面接だけでは計れないよ。」


フィッターからテクニシャンに昇進するには、B-Quikのすべてのサービスをこなせるようにならなければならない。社員は1コースにつき数日間の研修を20コース受ける必要がある、とエイCOOは言う。また技術学校とも提携しており、学生は週に1日学校に行きながらB-Quikで働くことができる。このプログラムでは、給料だけでなく学費もB-Quikが支援する。

「人材をなによりも優先する。」キックスは言う。「これがB-Quikの成功の秘訣さ。」

(本文は、2016年9月、B-Quikにて実施したインタビューをもとに作成しています)

#09
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