Scope #12

GoldlinQ

トラムに乗ってサーフィンへいこう
ゴールドコースト・ライトレール

By William Sposato

豪州の名高いリゾート地、ゴールドコースト中心部の混雑した駅に、しなやかな車体のトラムが静かに入ってきた。駅に到着すると、大型のドアからはビーチに繰り出す地元市民や観光客が次々に降りて来る。

トラムにサーフボード?

そう、ここゴールドコーストのライトレール、G:linkのトラムの特徴の一つは、サーフボードを立てかけるラックが備えつけられていること。G:linkは年間1,200万人以上の観光客が訪れるリゾートの聖地ゴールドコーストの移動手段を一変させた。


現代のトラムは、ライトレール車両(Light Rail Vehicle)として知られている。地下鉄建設の膨大な費用負担に二の足を踏む中規模都市に、次第に採用されるようになっている。

ゴールドコーストでも、このライトレールが最適の選択肢と考えられた。市民や観光客の増加に伴い、南北に走る幹線道路の渋滞は年々ひどくなり、駐車場の確保もままならない状況だったからだ。


「ゴールドコーストの人口は20年ごとに倍増しており、誰もがビーチ沿いに住みたいと考えています。ですから、この限られたエリアを南北に移動する公共交通機関が市民の足として必要だったのです。ライトレールは正にその解決策となりました。」G:linkの建設・運営を統括するGoldlinQ Pty Ltdの最高経営責任者(CEO)、Phil Mumfordは語る。

計画は迅速に実行に移された。クイーンズランド州政府が2009年にゴーサインを出し、その2年後には建設開始。走行距離13キロに及ぶステージ1の路線は、2014年に開通した。

ライトレールの建設そのものも容易ではないが、何よりも困難を極めたのは、地元コミュニティの賛同を得ることだった。建設中は線路を敷設するだけでなく、公道を掘り起こし、地下に埋設されている下水道・電力網を移設しなければならず、道路交通への影響が著しかった。


「建設期間には様々な困難もありましたが、私たちは沿線の店舗や企業をできる限りサポートし、完工を成し遂げました。」と語るJason Wardは、このプロジェクトで広報及びオペレーション担当ディレクターを務めている。

建設から本格的な運行開始に至るまで、丸紅は重要な役割を果たしてきた。

「私たちは、ただ資金投資するに留まらず、世界各地での大規模交通インフラプロジェクトで培った経験をこのプロジェクトに活かしたいと考えます。日々の運営業務に関わり、また取締役会のメンバーを務めることによって、財務資本と知的資本の両面からこの事業に貢献したいのです。」と、丸紅からこのプロジェクトに派遣された山脇英恵は話す。彼女は満員電車で通勤していた東京での生活から快適なG:linkで通勤する生活への変化を楽しんでいるようだ。


「私の一日は、G:linkに乗ってオフィスに向かうことから始まります。通勤中は外の景色を見たり、車内の雰囲気を楽しみながら、その日のこと、その先の1週間のことを考えています。東京の満員電車の中では、なかなかこんな気持ちにはなれません。」と、彼女は付け加えた。

地元市民や沿線上の企業が抱えていた不安は、瞬く間に安全で便利なライトレールへの感謝に変わった。

「G:linkができてから買い物客が増えました。私たちの店は大型ショッピングモールにあるわけではないので、トラムが店の前まで買い物客を運んでくれて大助かりです」と言うのは、観光の中心地「サーファーズパラダイス」エリアにある流行りの文具店の店長だ。


この真新しいトラムは、一昔前の映画に出てくる路面電車とは大違いだ。7両編成で広々とした車内は、バリアフリーとなっている。自動車や歩行者が立ち入れない区間では最高時速70キロまでスピードを上げるが、店舗やレストランが軒を連ねるビーチ付近の通り沿いでは、歩行者に配慮し20~25キロまで減速する。

安全上の大きなメリットはもう一つある。少しお酒を飲んでリラックスしたい夜に自動車を運転せず帰路につく手段として、G:linkは週末24時間運行している。


「サーファーズパラダイスには人が大勢いるので、特に夜間の運転には注意が必要です。街中がパーティー会場のようになることもあるので、十分に目を光らせなければなりません。」と言うのは、Selena Davenport。毎日運行している14編成のトラムを走らせる52人の運転手のうちの一人である。ホスピタリティ業界からトラムの運転手への大きなキャリア転換を果たした彼女は、「トラムの運転なら面白そうだと思ったので、迷わず応募しました。」と付け加えた。

ステージ1が本格稼働し(定時運行は99%を超える)、ステージ2(7キロの延伸計画)の工事も2017年12月に完工した。これにより、このライトレールはブリスベン市と繋がる鉄道の在来線だけでなく、主要鉄道路線網にも接続された。


完工はちょうど、ゴールドコーストでの過去最大のイベント、コモンウェルス・ゲームズ(英連邦総合スポーツ競技大会)2018に間に合うタイミングである。旧英連邦に属していた70カ国が集結するこの大会は世界で最も大きいイベントのひとつで、6,600人を超える選手が参加する。一日当たりの乗客数は通常の2万1,000~2万5,000人から、定員上限の8万人近くまで跳ね上がると見込まれている。

「この一大イベントを滞りなく開催できるよう、GoldlinQチーム全員が計画の一つひとつに全力を尽くしています。」と、Mumfordは言う。


Mumfordは、この一大イベントで重要な役割を果たすことで、官民連携(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業の真価をはっきりと示すことができると考えている。

「この事業は官民共同で出資したインフラ事業ですから、あらゆる関係者に便益をもたらすことが重要です。私たちのパートナーシップは、投資家にとっても、クイーンズランド州政府にとっても、地元コミュニティにとっても成功しているといえるでしょう。」


丸紅の山脇は、このプロジェクトがコミュニティにもたらしたものを実際に目にしたとき、達成感を感じるという。
「トラムに乗車する人々の姿を見るのは喜ばしいことです。乗客の方と話すたびに、トラムにどれだけ感謝しているか、G:linkでどれだけ生活が便利になったかという話を聞かせてもらえます。」

ゴールドコースト・ライトレールは、クイーンズランド州政府とGoldlinQ Pty Ltdの18年に及ぶ官民連携事業であり、丸紅は30%出資すると共に、日々の運営にも参画している。
(本文は、2017年4月の取材をもとに作成しています)

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